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ノンフィクション体験記


6.真夏の滝修行


社会人になった最初の年、夏休みにたった一人で滝修行を体験した。
群馬県の上毛三山の一つで国定忠治で有名な赤城山。この深い山の中でした。
山の中腹に忠治温泉があり、ここから細い山道を歩いて約1時間で赤城不動尊というお寺にたどり着くのです。

そこには山の中にポツンとお寺があるだけで、こんな山の中にどの様にしてお寺を建てる建築材を運んだのか不思議なくらいでした。今では山道も整備が行き届き良くなり、観光客なども多く行く様になったのです。

夜は寂しくて、私が滝修行した頃は電気がやっと通った頃で、お寺にはいくつもの煤けたランプがぶら下がっていたのです。滝へはまだ山深くこのお寺から20分も山の中に入った所だったのです。

初めて滝を見た時はその落差50メートルもある偉大さにびっくりする程でした。

ここの赤城不動尊というお寺を私が寝泊まりする宿舎として借り、昼間は山を歩いて滝まで行き、その滝に打たれて夕方お寺に戻り、20畳もある2階のこの宿舎で一人で寝泊まりすると言うものでした。

深い山の中でも、昼間の滝に打たれている時間は、まれに山歩きの人が滝まで来る事もあるので、さほど寂しくはなかったのです。しかし、夜になるとまったく人はいなくなり静まり返るのです。「怖い」

お寺にいるのは年老いた住職と奥さんが本堂に住んでいるだけで、あとは山門や仏像の前にはロウソクが見えたり、線香がたかれているだけでした。

何となく不気味な感じであり、500メートル程離れた所に小さなお寺が2件あるけど、そこも薄気味悪い。朝晩、時々ドンドンという太鼓の音と、お経が聞こえてくるだけ
「やだなー」

滝修行が始まり、早朝滝に向かって歩き出すと、ジワーッと汗が出る頃に滝に到着するのです。色々な儀式を経て滝壺へと静かに入って行き、滝に打たれる。
何もかも忘れて滝打たれに専念したのです。

滝に当ると気持ちよく、すっきりした気分になります。血行もよくなり、肌も磨かれる。
マイナスイオンを取り入れ、すがすがしい気分になるのは言うまでもないのです。
滝に打たれては冷たかろうと思いがちだが、むしろ体が熱くなるのです。

悪く考えても心配するのは、入水前後の血圧の変動、それに滝壺にはよからぬ人物が放り込んだキャンプなどで持ち込んだ缶詰等の空き缶や、ガラス等によるけがを注意する必要はあるのです。

問題なく一日の修行が終わりお寺に帰るのですが、山は夜になるのが早くそのため早めにお寺に戻らなければならないのです。しかし、お寺に戻り夜を迎える。
これからが問題なのです。

まだ残り一週間ある。毎日毎日やってくる夜が怖いのです。今までこんなに夜が怖いと思った事はありませんでした。いっそのこと、夜がなければ良いのにと思った事もありました。

さて、本題になるのですが、実は毎晩毎晩、窓をノックされるのです。「怖い」
今まで聞こえないふりをしてきたのですが、ノックされる時間帯は特に決まってなくて真夜中の時もあるのです。

住職や奥さんなら別の入り口からノックをして来て、さすがに真夜中には私の泊っている所へは来る事はないのです。ここは怖い事に住職たちがいる本堂から離れた山門の2階の離れなのです。「怖い」 「神様仏様、怖くない様に頼みます。」
何度も何度も願ったものです。

ある日の事、今日は勇気を出してノックをされたら出て見ようと決心したのです。
ノックを待つのも辛いものがあります。すると「コンコン、コンコン!」 
とうとうノックされて来たのです。ノックされた窓を思い切って開けたのです。

「だれだぁー」 暗い山の中へ私の声が吸い込まれて行きます。
しかし、誰もいないのです。せっかく勇気を出して窓を開けて外を見たのですが、それらしき怖いものは何も見えなかったのです。

暫くすると、ゴソゴソと音が聞こえてくるのです。
「誰だぁー」 と大きな声で言った電灯の点いている窓の下を見たら、窓の敷居に何と凄い数のカブトムシ、きっと窓の明かりを頼りに「コンコン」してツルーっと滑り、下に落ちたに違いありません。






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