私は空手の指導員として、自分の道場で生徒を指導していました。 地元の組織としては300人と規模も、日本での知名度も上がって来ていました。 武道の世界では生徒が先生を目指して、いつかは先生よりも強くなるんだという基本はいつの世も変わらないのです。生徒達がだんだん強くなって来るので我々先生たちも気を抜いてはいられないのです。もちろん武道の世界は心、技、体を磨くのは必須なのです。 ある時に他の先生達に誘われて精神修行なるものを体験したのです。 それは深夜に数人で山歩きをするというもので、歩き始めから終わりまで一切言葉を交わしてはならないという約束事がある無言の行なのです。 栃木県にある山の獣道を歩き、頂上まで行き下山すると言うもので簡単の様ではあるがかなり難しかったのです。緊急用には懐中電灯は持っていくが修行中は一切点けない。耳を頼りに音と研ぎ澄まされた勘だけを頼りにひたすら歩くだけなのです。 参加者はまず私の流派のS先生、、お寺の住職、古武道の先生、そして私の4人、今回はこの男達4人で修行をする事になったのです。 修行が終わるのが夜中の3時頃だと聞いていたので、終わってから食べてもよいと思いS先生と私はコンビニから4人分のおにぎりを買って背負って出かけました。 夜12時に山のふもとに集合したのだったが既に3人来ていて全員で5人になってしまったのです。おにぎりは4人分しかないけど、仕方なく私が我慢すればよいので集合地点に行くと、すでに集まった時点から修行が始まっているらしく、お互いに目で挨拶を交わし合図をするだけでした。 早速無言の山歩きが始まり、S先生と私は空手の稽古着で古武道の先生は、古武道らしく古式ある衣装を身に着けていた。住職は袈裟を着ていて、もう一人の人は黒いジャージにフードを付けて殆ど顔が見えないのです。 5人が細い山道を歩いていくのだが、30分くらい歩いて順番が入れ替わるのですが、私は何処のポジションにいても全て怖い怖いの連続でした。口に出して言う事が出来ずガタガタ震えていました。 一番前だと暗い先から何かが突然やって来るのではないか!。また、一番後ろではそのまた後ろから何者かがやって来るのではないか!と、2番目、3番目、或は4番目ではなぜか前後の人達が、信じられなくなってくるのです。 「もしかしたら、前後にいるのは人間と違うのではないか!」など、暗黒の山の中で歩きながら考えていたのです。 全員が無言で山の中をサッササッサと歩いて行く、全員のペースに遅れまいと付いて行くのと怖さと大変でした。緊張に緊張が張り詰めて、歩きだしてから数分程が経過した時、山の中で獣が逃げる様なガサガサした音がすると、突然住職が 「S先生ーー!」・・・「ビクー」・・・ 「住ー職、怖いのは分かりますが、私語は慎んで下さい。」 修行中住職は何度も注意を受けていたのです。 歩き出して2時間も通過しているが恐ろしい気持ちは相変わらず続いているのです。 やっと下り坂に差し掛かって来て、真冬で周りは凍り付く様な寒さなのに、汗びっしょりで体がホカホカしているのです。 やがて出発地点が見えて来て、5人ともほっとしているのだと感じられました。 「修行が終わった。」 「いや、まだ終わっていない。」 誰一人として口を開こうとはしない。あれだけ怖がって何度か声を出してしまった住職でさえ話をしようとはしないのです。 やがてS先生が指をさし、100メートル程先に点灯している街灯を目指して明るい所へ行こうと合図したのです。 するとフードの男が後ろを振り向き、さっさと今出てきた山の中へ戻って行ってしまったのです。忘れ物があるわけでもないし、どうしたのか見ていたけど、生理的な用事かと思い、S先生が引き続き目で明るい方へと首を向け合図していたのでした。 4人が顔を合わせほっとして全員の緊張がとれたのか、皆さんの笑顔がよみがえっていたのでした。もちろん最初に口を開いたのは住職でした。 「これ食べますか!」と言って汗びっしょりの顔で、地面に5つのカロリーメイトを出して来たのです。私もリュックの中におにぎりが4つあるので、出そうとしたらなんと4つしか買ってなかったはずなのに、5つ入っていたのです。間違いなくS先生と4つ買ったはずなのに1個多かったのです。でも5人だったので結果的にはOKになったのです。 古武道の先生が何やらS先生に話しかけている。 「今、用足しに行っているフードをかぶった彼は、S先生が連れて来たのですか?」 「いや、違うよ住職が連れてきたのでしょう?」住職は私が連れて来たと言っているのです。「私はS先生と一緒に来たので、ましてや修行は元々は4人だと聞いていましたが」・・・ すると住職は4個持ってきたカロリーメイトが5つあると言うのです。そういえば我々が4個買って来たおにぎりも5個あるのです。とても不思議でした。住職は本堂に捧げておいたものを4個持って来たはずだと言うのです。 それよりも大きな問題は山からまだ戻らないあの得体のしれないフードの男、 「顔が見えなかったけどいったい何者?」4人とも誰も彼のことを知らない。 誘った人がいないのです。 しかも4人分買った食べ物も各々一人分多かったのです。その後、明るくなるまで得体のしれないフードの男を待ってみたが、戻ってくる事はなかったのです。 この話には後日談があり、我々が山歩きをする10日程前に、山の中でフードをかぶった男性の変死体が見つかり、所持品の中におむすびとカロリーメイトを持っていたと言うのです。 住職は「そういえばその頃、うちのお寺でその様な仏を一時預かった事があった」と言う。その時にカロリーメイトをお供えしていたと言う。 |
トップ |